このところ実験的にヒノキや杉で椅子を作っています。
一般の方にとっては「へー」くらいの感覚だと思いますが、木の作り手の業界でこんなことをしていると、けっこう「異端児」扱いされます。なぜなら家具は本来は固くて強度のある広葉樹を使って作るのが普通だからです。なかでも人の体重を受けとめ、ハードに扱われる家具である椅子に、比較的材質が柔らかい針葉樹を使って作ろうなどと言えば、ちょっと変わった人だと思われるワケです。
時代のニーズとして針葉樹のモノ作りが求められている
日本の林業と言えば、杉とヒノキ。寒いところに行くとカラマツに変わったりしますが、ほぼそんな感じです。戦後の拡大造林で植えられた杉やヒノキのその多くは今伐期を迎えています。つまり今が使い時。
世界的に見ると、緑はどんどん減っていると言われていますが、こと日本の木材事情に限って言えば、消費よりも成長の方が多いのが現状です。林野庁の資料を見ると、森林資源は毎年約7000万㎥増加してるのに対して、国産材の消費は3000万㎥に満たないくらいです。つまり使う以上に成長量が多い今は、ことさら杉やヒノキの使い時と言えます。
職場が林業の学校なので、木材生産に関わる方とも交流があります。そんな場でも「杉やヒノキで家具を作れないか?」という話題は上がってきます。木材の消費に実質関わってくるのは建築の分野と言われていますが、より身近に触れる、買える家具にヒノキや杉を使って欲しいというニーズはあるようです。まあ、家なんてそうそう買うものではないですしね。
ヒノキや杉は家具の不適材か?
ヒノキや杉は家具の不適材か?と聞かれたら、半分は正解と答えます。
- 強度弱すぎ
- キズつきやすすぎ
- 乾燥甘すぎ
モノ作りに使おうとするとなんてこったなすぎの3重苦に苦しめられます。
でも、別の側面から見ると
- 感触良すぎ(杉)
- 加工しやすすぎ(ヒノキ)
- 価格安定しすぎ(ヒノキも杉も)
なんていうメリットもあるわけです。つまりは良い面も悪い面もあるっていうこと。
そんな両側面を知りつつお付き合いすることで作り手は木と良好な関係を築けば良いと思っています。人だって木だって一緒です。完ぺきな人なんて世の中ほとんどいませんし、完ぺきな人としか付き合わないっていうコトはあり得ません。要は好きになれるかどうかで決めれば良いこと。適材か不適材かといったことは、その範囲のお話ではないかと思っています。
ヒノキと杉で作った椅子を使って思う事
そんなワケで現在、実験的にヒノキと杉を使った椅子を作っています。今は2回目の改良を加えた3パターン目の試作品が完成したところです。
これらの椅子は日常的に使いながら強度や使い勝手の検証をしているところですが、今のところ強度的な問題は出ていません。杉の座面は杉だからことさら当たりが柔らかいか?と聞かれると、布のクッション地ほどではありませんし、板座ですからそれなりに硬さは感じます。
手に持ってみた感じは「軽い」と言われることが多いです。つまり、ちょっと軽い普通の椅子です。個人的にはサラリとした手触りが気に入っていますが、これは個人の感想なので評価とはちょっと違うかなと。でも、岐阜県の木、地元の木で作った椅子を使っているっていうのは理屈関係なしに個人的満足度が高いです。
このプロジェクトの方向性
今の時点でのヒノキと杉の椅子作りの方向性としては
- 主要な材料としてヒノキと杉を使う
- 実用に十分な強度を持たせる
- そこそこにカッコよいデザインでまとめる
- 作りやすいシンプルで簡単な構造で設計をする
こんな感じの4つの方針で進めています。
この椅子作りのコンセプトはヒノキと杉の利用促進です。つまり、たくさんのヒノキや杉が使われることに目的と評価軸があります。作って終わりでは無く、普及も含め、今後検討を進めていく必要があります。簡易な設備でも作ることができる。高度過ぎたり熟練を要する技術が無くても作ることができるということも設計、デザインの要になっています。
ひとまずのまとめ
いくつか椅子を作ってみて感じたことは、ヒノキや杉でも家具は作れるなということ。個人的には久々の椅子作りに取り組んでいるのですが、椅子作りはやはり楽しいです。良いモノ、使えるモノにつなげられるよう進めていきたいと思います。
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