
2025年12月25日から始まった乳幼児用玩具に関する規制。作り手側にとって、1番大きな課題となっているのが、この「自主検査」ではないでしょうか。
今回の規制のルールでは、『国が定めた技術基準をクリアしていない家庭向け乳幼児玩具を、事業として製造、販売はしていけない』としています。この検査にかかる手間とコストを理由に、今年いっぱいでおもちゃの製造から手を引く・・という残念なお話も耳に入ってきます。
今回は、新しい規制によって必要となる「自主検査」についてお話したいと思います。
- クリアしなければいけない技術基準とは
- 自主検査ってどういうことをするの?
- すでに認められている4つの検査規格
- 検査機関に依頼する方法
- 自分で検査する方法(自主検査)
- 1 使用中に受ける応力に耐えうる機械的強度及び安定性を有すること
- 2 乳幼児が触れるおそれのある縁、突起、ひも、ケーブル又は締め付ける器具は、接触による身体上の損傷のおそれがないこと
- 3 可動部分を有する玩具は、使用に伴い、身体上の損傷のおそれがないこと
- 4⑴ 頸部を圧迫するおそれがないこと
- 4⑵ 口及び鼻を覆うことによる窒息のおそれがないこと
- 4⑶ 口、咽頭及び気道を閉塞することによる窒息のおそれがない大きさであること
- 4⑷ 飲み込んだり、吸い込んだりしない大きさであること
- 4⑸ 玩具の容器包装は、口及び鼻を覆うことによる窒息のおそれがないこと
- 5 乳幼児がその中に入ることができる玩具は、閉じ込められた際、その乳幼児が容易に中から脱出できる手段を有すること
- 6 発射体の形状及び構成並びに玩具の運動エネルギーは、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさないものであること
- 7(1) 玩具の表面は、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさない温度であること 7(2) 玩具に内包する液体又は気体は、玩具から放出された際、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさない温度及び圧力であること
- 8 音を発する玩具は、最大音量であっても乳幼児の聴力を損ねないこと
- 9 燃焼しにくい材料又は構造のものであること
- 検査方法と結果、評価と解釈の考え方
クリアしなければいけない技術基準とは
今回の規制にあたって、経済産業省は「乳幼児用玩具(3歳未満向け玩具)の技術基準」というものを作りました。今後、乳幼児玩具の事業者は技術基準を満たしていることを証明するため、検査を行い、検査記録を作成して、それを保存しなければならなくなりました(保存期間は検査日から3年間です)。
これには10の項目があるのですが、主には9つ※の項目について、その玩具が基準をクリアしているかを検査して確認する必要があります。その内容は主に、玩具の物理的安全性(強度や形が危険につながらないか)と可燃性(素早く燃えてしまう素材で無いか)について確認するものになります。
※10番目の項目はパッケージや説明書など表記に関するルールになります
化学的安全性についての基準はありません
今回の経済産業省の規制のポイントの1つに、玩具の化学的安全性についての技術基準は設定されていないということがあげられます。これは例えば、おもちゃに使われている塗料や素材の成分を調べ、なにかしらの化学物質的な悪影響を及ぼさないか?といったことについて、子供PSCマークを付けるにあたって検査の必要は無いということです。
(余談になりますが・・)例えば日本玩具協会が独自に定める安全基準(ST)は、化学的安全性についても検査項目と基準値を設けています。他にも、厚生労働省が食品衛生法で6歳未満児用玩具に定める規制※では、重金属の溶出に関する基準値が設けられています。
※H21厚生労働省医薬食品局 指定おもちゃの範囲等に関するQ&A
自主検査ってどういうことをするの?
自主検査は、経産省の「乳幼児用玩具(3歳未満向け玩具)の技術基準」の各項目について、必要な要件を満たしているかを確認するものです。
ただし、この技術基準には「この内容の検査を行い、この数値以上であれば合格ですよ」というようには書かれていません。そのため、玩具メーカーによっては独自の合格基準を設けて、それに沿った検査(自主検査)で対応をしています。
独自の合格基準をどのように決めるかについては「十分な技術的な根拠があれば技術上の基準に適合していると判断する※」とされています。一方で、「国や第三者からの問い合わせがあった場合は、根拠となる資料を示せるよう準備しておくことを勧めます※2」と続いており、独自の基準値を決める際には客観的な資料も合わせて求められると考えられます。
※R7.8.14消安法特定製品関係の運用及び解釈について
※2 2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問4(3).十分な技術的根拠は誰が判断するものか より
すでに認められている4つの検査規格
既存の玩具の検査規格となっている、以下の4つについては乳幼児用玩具の技術基準を満たしている※とされています。
- 子ども用おもちゃの国際規格:ISO8124-1:2022及びISO8124-2:2023
- 欧州(EU)の玩具安全基準:EN71-1:2014+A1:2018及びEN71-2:2020
- 米国玩具安全規格:ASTM F963-23(4.1、4.2、4.5から4.19、4.21から4.28及び4.30から4.41に限る。)
- 日本玩具協会の玩具安全基準:ST-2025
検査機関に依頼する方法
自主検査を行うのが難しい・・という製造事業者については、検査機関に依頼することも可能です。日本文化用品安全試験所やボーケン(ボーケン品質評価機構)などに、子供PSCマークの取得に必要な試験を有料で委託することができます。かかる費用は検査機関や内容によって異なりますが、これまで依頼された方の話を聞く分には3万円~の出費となるようです。また、提供する試験体数(玩具の数)も検査機関によって異なります。
自分で検査する方法(自主検査)
自主検査については、「乳幼児用玩具(3歳未満向け玩具)の技術基準」のに沿って、1つ1つの項目の基準値を設けて試験→結果資料の作成という流れになります。
検査のポイントは
- 子どもが安全に遊べるか
- 乳幼児が飲み込んだりしないか
- ケガや事故の恐れが無いか
といった点になります。以下に技術基準(1)~(9)への適合のポイントについて考えていきたいと思います。文章の中で「既存の検査」と表現しているのは上記で紹介した既に認められている4つの検査規格のいずれかのことです。
1 使用中に受ける応力に耐えうる機械的強度及び安定性を有すること
使用中に受ける応力とは、子どもが遊ぶ際に玩具にかかる負荷(荷重や引張り、衝撃に対する強度)や、偶発的に起きる落下などに対して、玩具が破損、分解しないかという点が検査のポイントになります。
まず玩具が破損しないことが1番ですが、破損したあとが「危険な形状になっていないか」「誤飲の恐れのあるサイズに分解しないか」もチェックの対象になります。チェックの方法は破損状態を目視によって観察したり、破損部分に膜状のものをこすりつけて、刺さったり裂けたりしないかを確認するなどが考えられます。
2 乳幼児が触れるおそれのある縁、突起、ひも、ケーブル又は締め付ける器具は、接触による身体上の損傷のおそれがないこと
遊びの際に触れる場所に危険な縁や突起が無いか。これは目視や膜状のものをこすりつけてチェックすることができます。突起の危険性は小サイズの穴の中にスイッチを設けたテスターで検査することも可能です。
木質素材という前提において、先端の大きさや長さ、縁(面取り)は半径何ミリの半円形状かなどを1つの目安として、安全性を図面から判断することも可能です。
玩具に付属する紐やケーブルは、細いものは触れた際に切れたり、巻き付いた際に血管を締め付けてしまうような危険性があるため、紐の素材と直径についても確認する必要があります。
3 可動部分を有する玩具は、使用に伴い、身体上の損傷のおそれがないこと
遊んでいる際に、玩具に含まれる関節(丁番やヒンジ)部分が手や体を挟み、怪我をする恐れが無いか。ケガの恐れのある可動部分が含まれていないかを図面や製品の目視でチェックします。
4⑴ 頸部を圧迫するおそれがないこと
玩具に付属する紐やケーブルは、輪っかになっていたり、両端が何かに固定されているなど、体や首が引っかかったり絡まる可能性のある形の場合は、子どもの顔や頭がくぐらない長さ。わっか形状の無い、片側がフリーになっているような紐であれば、首を絞める恐れの無い300㎜未満の長さが1つの目安となります。ゴムのような伸縮性のある素材の場合は伸び切ったときの長さが、設定した基準値を超えないか確認する必要があります。
4⑵ 口及び鼻を覆うことによる窒息のおそれがないこと
木製玩具に関しては、布や膜状の素材を使っている場合に注意が必要です。ビニールのような通気を遮断する素材ではなく、顔を覆っても呼吸を妨げない通気性のある布を選んだり、顔を覆えないサイズで使用するといったことが必要です。
4⑶ 口、咽頭及び気道を閉塞することによる窒息のおそれがない大きさであること
子どもの口の大きさを模した、円形や楕円形の穴のあいたサイズチェッカーで、玩具の本体やパーツが通過してしまわないか確認します。チェッカーのサイズの目安は乳幼児の口の大きさ+安全値を見こして決める必要があります。楕円の場合で40㎜弱×50㎜程度の大きさ。円形であれば直径45㎜弱が1つの目安となります(チェッカーの高さは30㎜を目安)。
喉をふさぐ、突くといった点については、サイズチェッカーの深さ(高さ)を玩具やパーツが超えないかによって確認ができます。誤飲チェッカーについては市販されている物もあるので、それを使うのも良いと思います。
4⑷ 飲み込んだり、吸い込んだりしない大きさであること
4(3)の技術基準の確認の際に、口に入らない大きさであれば、技術基準を満たしていると考えられます。
(3)と(4)は何が違うのだろう?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、4(3)が誤嚥(気道をふさぐことによる窒息)に関する検査なのに対して、こちらは「口に入らない大きさ」(誤飲への対処)という違いがあります。4(3)同様、誤飲チェッカーを準備して、それで確認します。
4⑸ 玩具の容器包装は、口及び鼻を覆うことによる窒息のおそれがないこと
容器包装が全く通気性の無い素材(例えばビニール袋など)の時は、袋の支障の無い位置に通気用の穴を開けておくといった対応が必要です。また、新聞紙でも場合によっては窒息事故は起きるとされますので、緩衝材として入れるクシャ紙でも、完全に顔を覆わないスリット(切込み)を入れたりしたものを選ぶ必要があると考えられます。紙箱などは、ある程度の硬さがあるため「顔を覆うことで窒息の恐れはない」と判断できます。
5 乳幼児がその中に入ることができる玩具は、閉じ込められた際、その乳幼児が容易に中から脱出できる手段を有すること
子どもが中に入るような使い方をしない玩具については「該当なし」でOKです。
この「その中に入ることができる玩具」の技術基準は、外部からの助けが無くても「乳幼児が自力で外に出られるようになっている」ということが求められます。一般に開口部にボタン、ファスナーなどの留め具を使用していないことを確認します。子どもの力でも押せば剥がせる、マジックテープのようなものは使用可能です。
6 発射体の形状及び構成並びに玩具の運動エネルギーは、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさないものであること
飛ばす部分が顔や体にあたっても、怪我をする恐れが無いかを確認します。
飛翔体の素材/重さ/硬さ/形。そして、飛翔する距離などから、総合的に見て危険性を判断します。飛翔部分が紙のように軽い素材であれば、1m飛んできて当たっても怪我はしませんが、木の矢のようなものであれば、飛翔距離が30㎝だったとしても目にあたればケガをしてしまいます。
まずは当たってもケガをしない素材であることと、発射能力であることを確認します。
7(1) 玩具の表面は、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさない温度であること 7(2) 玩具に内包する液体又は気体は、玩具から放出された際、乳幼児の生命又は身体に危害を及ぼさない温度及び圧力であること
一般に木製玩具であれば、通常の使用時に急激な温度変化は生じないので「該当しない/該当箇所は無し」とし、検査は不要と考えられます。
8 音を発する玩具は、最大音量であっても乳幼児の聴力を損ねないこと
騒音が体に及ぼす影響については色々な関係機関が情報を出していますが、85db(デシベル)の音量に定期的にさらされることで騒音障害につながるというのが1つの目安としてあるようです。
一方で、既定の検査基準においては突発的な音が鳴る玩具(ホイッスルなど)や大きな音が鳴るが、耳のそばで使うことが想定されない玩具(音の鳴る機構の付いた押し車など)については、音源との距離や音を鳴らす頻度に応じて基準値を変えて判断するといったことをしているようです。
玩具から発生する音については騒音計によって音量を計測します。
9 燃焼しにくい材料又は構造のものであること
検査のポイントとしては「急に炎が燃え広がらないか」「燃えやすい材料で玩具が製造されていないか」ということになります。燃え始めると大きな炎になって消えにくいセルロイド素材や表面フラッシュと呼ばれる一瞬で広範囲に燃え走るような繊維素材の使用を既存の検査では禁じています。
通常の木部に関して言えば、バーナーで数秒あぶった程度で引火することは無く、また、炎が燃え走るようなことも無いため、「燃焼しにくい素材」にあたります。合理的に考えて木製玩具は「燃焼しにくい材料のため、該当箇所は無し」という表記で良しと考えます。
1点、疑問を持たれる方もいると思うのですが、経産省が出したFAQ※の中に、この技術基準9項について「木製品だからといって除外されるものではありません」という記載があります。しかし、既存の規格に沿って合理的に考えれば「木部は引火性と燃焼速度の双方から判断するに、燃焼しにくい材料のため該当しない」というレポートになります。木製玩具に何かしらの副資材を含む場合は、その部分(素材)の燃焼性や燃焼速度について試験を行う必要はありますが、木部については毎回燃焼試験を行う必要は無いと考えられます。
検査方法と結果、評価と解釈の考え方
先日、今後の乳幼児玩具の自主検査のやりようについて、県の生活用品の検査機関の方々と、今回の自主検査にかかる検査方法と安全評価の方法(試験結果の解釈)について意見交換をしてきました。検査の専門家の意見としては「こと木製玩具に関して言えば、いくつかの試験は実施する必要が無いと思われます」というご意見でした。そして、検査にあたっては「必ずしも専門の検査機関に出す必要は無い」ということもおっしゃっていました。
検査機関であれば、検査のルールにのっとり、精度誤差の確認された計測機器を使うことで、数値の誤差の無い(少ない)検査結果を出すことができます。一方で、レポートとしてまとめる際は、既定の安全基準値(ISOやSTなど)に照らし合わせて「ISO規格に適合」「STに不適合」といった報告書は出せるものの、文系な表現で規定されている技術基準に対して、適合している・適合していない、ということは言ってくれません。後に事故が起きたとしても、それを補償をしてくれるわけでも無いのです。
合わせて、検査機関は製品の実用に必ずしも即した検査方法をするわけではありません。一例として、ある規格では、製品を相当な高さから鉄板の上に何度も落下させるような試験をしますが、それは通常の乳幼児が生活する環境・用途とは明らかに異なっています。
検査機関は検査条件を一定に揃えることが重要なため、必ずしも、実用の状況と同じ環境での検査は行っていません。検査機関が出すのは、あくまで検査結果の客観的な報告書まで。ISOやSTといった既存の規格に適合しているかの判断はできますが、技術基準を満たしているのかどうかの「解釈」はできません。解釈はあくまで、事業者自身が行う必要があるのです(だから事業者自身が損害保険に加入する必要があるとも言えます)。
ここからは完全な私見になりますが・・
検査については色々な考え方がありますが「自分が作る玩具は国内流通しか考えていないよ」というのであれば、自分は自ら設定した安全基準に沿って検査を行う『自主検査』がおススメと考えています。検査機関に依頼する試験内容をひも解いてみると、実際のおもちゃの運用とはかけ離れた「そこまでする必要があるのか?」という疑問符が付くものもあります。安全性は大切と思う一方で、この過剰とも言える既存の条件をクリアすることに作り手がモチベーション上げるのは難しいところだと思っています。
独自の安全基準をどのように決めるかについては「十分な技術的な根拠があれば技術上の基準に適合していると判断する」とされています。検査、試験と言われると、何でもかんでもを事細かにやらなくてはならないのでは・・と考えてしまいがちですが「こんなこと言わなくても(やらなくても)わかるだろう」という部分に関しては、あえて事業者が踏み込む必要はありません。
技術基準への適合検査(自主検査)は一見、多くの項目がありますが、木製玩具に関しては、いちいち検査する必要のない(該当しない)項目もあります。本当の安全に向かうため※の手間やコストは必要な経費としながら、良い形で規制と付き合えると良いと思います。
※安全へのアプローチは技術基準への適合だけでなく、ユーザー側の玩具の使い方・遊び方にも大きく左右されます。そのために、今度は説明書やパッケージを通したユーザーへのアプローチも重要になってきます。

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