岐阜県多治見市のセラミックパークMINOに作った木のあそび場は、岐阜県産材を主に使って作られていますが、そのほとんどに杉(スギ)という木を使っています。先だって完成したオリンピックスタジアムには47都道府県から木材が提供されたと話題になりましたが、杉が自生しない沖縄県を除く46の都道府県からは、この杉の木が集められました。
杉は日本中で入手しやすく、建材として様々な用途に使われる一方で、他の木と比べても「柔らかい」という特徴があります。爪で押すだけでも深くへこみ、とてもキズが付きやすく摩耗しやすい木です。今回のような激しく使われる「子どものあそび場」の材料としては、ぶつかってもケガをしにくいという「長所」もありますが、あっという間に傷だらけ、へこみだらけでは困ってしまいます。
杉は径も太く、伐期をむかえた木が山にはたくさんあります。たくさん杉を活用していくためにも、公共施設でも使えるような耐久性と摩耗性がある杉がないかなー・・・と。そんな無理をかなえる杉の板があるんです。それが今回、遊び場づくりに使われた杉の表層圧密材Gywood(ギュッド)です。
表層圧密材ってどんな木材?
表層圧密材とは、読んで字のごとく表層(木の表面)を圧密(圧縮して高密度化)した木の板です。Gywoodを持ち上げると、その重さに驚きます。特に木の仕事をしている人ほど「これが杉!?」と良いリアクションをしてくれます。
Gywoodは見た目の倍近い厚みの板を圧縮するため、普通の杉よりかなり重く硬くなります。一方で、圧縮しているのは表面近くだけなため、芯まで圧縮する圧密材に比べて軽量で衝撃吸収性も高くなります。つまり表面は固くキズが付きにくく、一方で杉の柔らかい特性も併せ持った素材と言えます。
木のあそび場での使い方
木のあそび場作りでは、壁面遊具の踏み板(でこぼこパネル)、すべり台、階段(踏み板のみ)、フローリング、ちゃぶ台の天板に杉の表層圧密材Gywoodを使っています。これらは主に子どもたちが歩き回る床部分など、遊びの中で摩耗しやすい部材です。
特に、壁面遊具の踏み板(でこぼこパネル)は、遊具のフレームとフレームをつなぐ構造的な機能も求められます。この部分に剛性の高いGywoodを使うことで、板の上に子どもが乗った時も板がたわみにくくなっています。
Gywoodは強度に優れた特性を持つ反面、初期コストは通常木材よりも高い材料です。そのため、遊具の設計では適材適所を考え、通常材と組み合わせて使っています。壁面遊具の上側の板やフレーム、階段の構造部分などは、強度上問題が無いため、通常の杉の無垢材を使っています。
セラパのあそび場で、経年変化を比較調査
床のフローリングにはGywoodとヒノキの無垢フローリングの2種類を使っています。
用途的には、飛び降りなどの強い衝撃が予想される壁面遊具まわりにGywoodのフローリングを。それ以外にはヒノキの無垢材を使ったフローリングを張っています。これはフローリング表面の摩耗を抑える意図と、耐衝撃性の高さを活かすための使い分けです。
一方で、2つのフローリングが今後、どのように経年変化していくかを見ていくための実験的な意味もあります。これから時間が経ち、ヒノキとGywoodのフローリングがどのようにエイジングされていくか、楽しみです。
遊具製作で感じたGywoodの特性
Gywoodの長所、メリット
Gywoodは板の裏表が固く、キズが付きにくいのが特徴です。そのため、通常の杉を使った加工作業では、板を置く際に下にマットを敷くなど配慮が必要なのに対し、材の取扱いにそれほど神経質になる必要がありません。そのため、作業の効率や手離れが良く、キズの修正などの手戻りが少ないのがありがたい点です。
また、通常、繊維が欠け飛びやすいトリマーの面取りでも、表層圧密された部分は繊維が欠け飛ぶことはほとんどありませんでした。通常、逆目(さかめ)が起きるようなトリマーの当て方をしても、きれいに成形ができるのは見た目の仕上がり、作業性の双方でメリットだと感じました。
今回、一部構造にはビスによる金具固定も行いましたが、圧密部分にはしっかりとネジが効くため、杉の無垢材に比べて接合に安心感がありました※。工場で木取りされて送られてくるGywoodは幅矧ぎ(はばはぎ)をした状態、表面を仕上げた状態など、加工された半製品状態での購入もできるため、作業設備や環境に制約がある場合でも、扱いやすいというメリットもあります。
※ビス止めする際は圧密層をビスが通る必要があります。木端方向のビス止めは通常の杉とあまり変わらないと思われます。
Gywoodの短所、デメリット
Gywoodの圧密加工には、ケミカルな薬品等は使っていませんが、圧縮と熱処理(※仕上げにより異なる)をするために、色が濃く黒っぽいのが特徴です。これは杉本来の色味とはかなり異なります。
加工性においては、特にデメリットを感じる部分は無かったのですが、重たくなる分、取り回しには力が必要になります(それでも広葉樹のミズナラとほぼ同じくらいの重量です)。また、無垢材の加工品になるため、素材価格としてはかなり高くなるのはしょうがない点と言えます。
初期コストは高くなる一方で、摩耗性・耐久性の高さにより、張替え・交換の頻度は少なくできることが期待できるため、ランニングコストを含めたトータルで、どちらが得か?今後のモニター調査で調べていけたらと思います。
まとめ
一般の杉に比べて硬く重いGywoodですが、加工は一般的な木材加工用の機械で行うことができます。そのため、設備に追加投資する必要がなく、かつ強度的、作業的にワンランク上の製品を作ることができます。独特の黒みがかった木地は高級感があり、今回製作したすべり台は「高級そうですべりにくい!」との声もあったほどです。
今までの杉の無垢財とは、一味違った活用ができる木材として、今後もGywoodで作った遊具を使用しながら材の適材適所を見定めていけたらと考えています。セラミックパークの木の遊び場ではGywoodと普通の杉、ヒノキを見比べることができる公開実験的な場所にもなります。杉の表層圧密材がどのようなものか知りたくなりましたら、セラミックパークでいつでもご覧いただけますので、ぜひ見学に来て下さい。その際は美術館でのアート鑑賞や気持ちの良い山の遊歩道の散策もぜひ楽しんでいって下さいね!
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