子ども用の耐切創手袋「まもっ手くん」を作ってもらった理由

前回の記事で、子ども向けのナイフワークについての研究を始めたことを話題にしましたが、この研究に取り組み始めたときに、アパレル業界に詳しい学生に「子ども向けの耐切創手袋を作ることはできないだろうか?」という相談をしました。そうして生まれたのが子どもの手にぴったしサイズのナイフグローブ「お守り手袋」です。「耐切創」とは刃物で切れない(又は切れにくい)性能のこと。ナイフワークに取り組む際の安全対策の1つとして、ナイフカフェでは「お守り手袋」を使うことがあります。

子どものナイフ用手ぶくろ

モデルは小学校2年生、手袋サイズはXXSがピッタリ

聞きなれない言葉かもしれませんが、大人向けの作業手袋やワーキンググローブには「耐切創手袋」というラインナップがあります(子ども向けは自身が調べた範囲では見つかりませんでした)。耐切創性には性能レベルにより「ちょっと切れにくい」程度のものから「数十回の刃の切り付けに耐えられるもの」、はたまた鎖帷子(くさりかたびら)のような金属チェーン状の物まで様々な製品があります。自身がナイフやオノを使った木工をするときに使っているのはミドリ安全の手袋MaxiCut Ultra 44-3755というものですが、これは CE規格(EN388)カットレベル5という性能で、既定の回転刃物を20回以上往復させても貫通しないレベルの物です。安全性は高く、同時に手にぴったりフィットして滑り止めもついているため、作業性や手の疲労の面でも悪くない物です。子どもと一緒にナイフを使うことを考えたとき、このような手袋を用意したいと思ったのです。

ナイフを使っていて起きる多くのケガは切先(きっさき)から

ナイフを使っていて起きるケガの多くは、刃物が不意に動きナイフのとがった切先(きっさき)で手を切りつけてしまう事故です。そのため、各ナイフメーカーが子ども用にラインナップしている製品を見ると、切先を丸い形にすると同時に先端に刃を付けていない仕様になっています。ビクトリノックスやオピネル、モーラナイフなどのブランドのキッズナイフはいずれもこの形です。アカデミーが開発に参加したmorinocoナイフも切先を丸くしたデザインになっています。

オピネルもキッズナイフは刃先が丸い

フランスのナイフメーカー、オピネルもキッズナイフは刃先が丸い

実は耐切創手袋でも切先が尖った刃のナイフの場合、縫い目に切先が入ってしまうため、ケガの防止には不十分な面があります。しかし、安全対策に切先を丸くしたナイフを使い、耐切創手袋を併用すればケガのほとんどを防ぐことができます。自身が行うナイフカフェも基本は切先の丸いナイフ+耐切創手袋を使った作業を参加者にはおすすめしています。

子どもと刃物をとりまく環境に感じた違和感

実は子ども向けの耐切創手袋を開発したいと言ったとき、既に一般の大人向けや一部子ども向けのナイフや小刀を使ったモノづくり活動をしている方からは総じて否定的な意見をもらいました。「手袋をしたら、作業性が損なわれてかえって危ない」「素手で触らないと削った仕上がりが確認できない」「正しい刃物の使い方をすれば素手でもケガはしない」「ケガの体験から学ぶことが大切なんだ」などなど。それぞれに活動の実体験とポリシーがあり、ゆえに、子ども達には素手で刃物を使ってもらうんだという、強いポリシーをたくさん聞くことになりました。

素手でナイフを使う

ナイフは「素手で使う」という指導者は多い

どれも「なるほど」と思う一方で、自身には腑に落ちない違和感がありました。この違和感はなんだろう?と考え込んでいたのですが、あるときそれは自身が過去に何度か手を切った経験から「ケガはしたくもないし、させたくもない」と思っている「考え方の違い」からくることだと合点がいきました。(これはどちらが正しいという話ではありません)

ケガは防げるならそれに越したことは無い(と思う)

ケガは大小に関わらず、しないで済むならその方が良いと思います。切創についてはいくらかの実体験があるのでどうなるかを知っています。

ナイフの切り傷程度であれば、軽くてバンソーコー、重くて数針の縫合なので数日から1か月程度で完治するものがほとんどですが、その間、お風呂に入れなくなったり、日常の諸々の作業に支障をきたすなど、とても不便です。大人であれば、仕事がしばらくできなくなったり、労災が下りたとしても、膨大な書類を作る手間が発生して多少の後悔をします。周囲の人にも手間をかけさせてしまうこともあります。また、完治したといっても傷跡は残ります。季節の変わり目には古傷が痛むこともあります。

ケガによって生じる様々な不便、その後、傷跡の痛みを感じたり肌の変形を見て、どう思うかは人それぞれです。

自分の場合であれば、自分のケガについては傷跡も季節の痛みも諦めがつきました。でも、そのケガが自分の家族だったり、自身の企画したワークショップの参加者だったとしたら?この先は想像ですが、その時には強い後悔が残るかもしれませんし、自分のことを責めることもあるかもしれません。

「子どもがケガをしても、そこから成長すれば良いんだよ」と言う大人はけっこうたくさんいますが、簡単に言って良いのかな?とも思います。子どもがケガをする瞬間、完治した後も残る傷跡を見て誰もが良い経験をしたと思うでしょうか?後悔しないでしょうか?けっこうそれは精神的にキツイことです。子どもがケガをしたとき、それが大人の配慮で予測ができて防げたケガだったとしたら、ケガをしたのは大人の責任であり、子どもの傷跡は大人が付けた傷跡とも言えます。

耐切創手袋をしたところで、結局人はケガをする(と思う)

人間はいつでも間違ったり失敗します。

ナイフを使うときも「正しく使えば大丈夫」という前提で話をする方もいらっしゃいます。ただ、自分は「人はミスをするし、エラーも起こる」を前提に話を組み立てるので、やり方が異なってくることになります。エラーには人によるもの、環境によるものいろいろな要素があります。自分の注意だけでは防げない周囲からの災害や無意識や好奇心から発生する間違いなんてのもあります。そういったエラーが起きたときの「保険」に耐切創手袋があると良いなと思っています。

ナイフカフェにて

ナイフカフェで木を削る小学生

だから、実は耐切創手袋があったとしても、人が人である限りケガは起きると思います。耐切創手袋があるからといって、全てのヒヤリハットが無くなることはありませんし、ケガや失敗から学ぶことも無くならないはずです。でも、耐切創手袋があることで、失敗やケガの程度は軽くすむことが増えるはずだと思っています。

まとめ

自身としては、刃物を身近に使う取り組みをするときに、気軽に選べる「選択肢」としてこども用にも耐切創の手袋があると良いと考えています。

今回、開発して頂いた「まもっ手くん」は幼児さん(年長くらいから)の手にも合うサイズからラインナップして頂きました。ナイフを使ったモノ作りや、キャンプで薪割りを子どもと一緒にしたいと思ったときに、身近な選択肢として、この手袋を選んでもらえると良いかなと思います。

特に、子育てに関わる現場(家庭を含め)では、「刃物を使わせたい」大人と、安全と責任から「刃物を使わせられない」大人が議論をすることがままあります。そんな時に、お互いが一歩譲歩する位置に「耐切創手袋」という選択肢があることで、刃物に触れる経験を多くの子どもや大人たちにしてもらえたら良いなと思います。

こども用耐切創手袋「お守り手袋」の販売が始まりました

2歳だと少し大きいお守り手袋

2歳だとXXSでも少し大きいお守り手袋

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