
先の記事で、2025年12月25日からは乳幼児(0~3歳未満児)を対象にしたおもちゃは子供用特定製品という位置付けになり、製造、販売するには、新しい規制に対応する必要があるというお話をしました。
おもちゃは子どもが日常的に触れるもので、高い安全性をもって作らなければいけません。そのために、一定の基準(技術基準への適合)が必要だというのは先述のとおりですが、おもちゃであれば何もかもが規制の対象になるわけではありません。今回はその「規制の対象になるおもちゃ」「規制の範囲」についてお話をしたいと思います。
※この記事の中での「乳幼児」は0~3歳未満児を指しています
※特定製品の意味や作ったり販売する上でのルールについては消費生活用品製品安全法 法令業務実施ガイドに詳しく解説されています
『乳幼児玩具に対する新たな規制』の対象玩具
今回の新たな規制の対象となる「乳幼児玩具」を施行令では「主として家庭において出生後36月未満の乳幼児の遊戯に使用することを目的として設計したものに限る」と言っています。
逆に言えば、上記に含まれないものは、規制の対象からは「除外される」ということになります。
まずは規制の対象となるものから説明をしていきましょう。
0~3歳未満児向け(乳幼児向け)のおもちゃであること
ここの部分を間違える方はあまりいないと思うのですが、規制対象となるおもちゃの対象年齢は0歳(生まれたばかりの子ども)から3歳未満までとなります。つまり、3歳以上を対象年齢としたおもちゃは今回の規制の対象外となります。
明らかに3歳未満児の発達段階に合わないおもちゃは、この規制の対象外となります。例えば100ピースのジグソーパズルや細部まで作りこまれたプラモデル。インラインスケートなどは規制の対象外となります。
家庭用のおもちゃであること
施行令の「主として家庭において」という言葉が示すように、規制の対象となるのは「家庭用に設計された玩具」に限られます。例えば、保育園や小児病院など、子どもの専門家である保育士や管理者が付き添いながら遊ぶことを想定された施設向けに設計された玩具については規制の対象外となります。
一方で、商業施設の一角に設置されるような無人のキッズスペースは、専門的なスタッフが配置されているとは考えられず「家庭に準じた環境」とみなします。この場合、乳幼児玩具を置く場合は子供PSCマークの付いたおもちゃを選ぶ必要があります。
同一の工程を経て作られる量産品であること
先だって岐阜県で開催された規制の説明会で「ハンドメイド(手作り)の乳幼児向け玩具に対しても規制は適応されるのか?」という質問が出されました。
これに対する回答は下記のように説明されていました。
消費生活用品安全法では、製造者が個人か法人かに関わらず、一般消費者の生活の用に供される製品を、①対価を得て事業として提供する場合は規制の対象となります。
また、ハンドメイドでも、②「同一の製造工程で繰り返し製造する」場合、工業的プロセスを経て製造されたものと見なされ、規制の対象となります。
この回答の①の部分からは「(乳幼児おもちゃを)事業として提供する場合は規制の対象となる」と明言されています。
また、作り方がどのようであっても、②の部分から「同一の工程を経て量産して作られるようなおもちゃは規制の対象となる」と回答しています。
※2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問1(6).ハンドメイド(手作り)の扱い より
完成すると乳幼児玩具になる工作キット
完成品では無く、パーツの状態であったり、半完成品の状態で販売され、ユーザー自身が組み立てることで乳幼児玩具が完成するような工作キットは規制の対象となります。
※2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問1(9).完成すると3歳未満を対象にした玩具になる組み立て式製品や工作キットの扱い への回答より
規制に含まれないもの
ここからは、一部例外も含まれますが、規制の対象とならない乳幼児玩具の例を挙げていきましょう。
オーダーメイド(特注製造)のおもちゃは規制の対象外
毎回の発注ごとに、違う形、異なる仕様で製造するオーダーメイドのおもちゃは、上記の「同一の製造工程」には当たらないとされます。オーダーメイドは発注者である消費者(購入者)が設計内容を把握しており、製品に対してのリスクを負うものと考えられるため、規制の対象外となります。
ただし、オーダーメイドであっても、特注の仕様が名入れのみであったり、色のみが変わる場合など、ほとんど同一の製造工程を繰り返して作られているおもちゃは規制対象となります。
※2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問1(7).オーダーメイド(特注製造)の扱い の回答より
2025年12月25日以前に作られたおもちゃは規制の対象外
今回の規制が始まる2025年12月25日以前に作られた乳幼児玩具は規制の対象外となります。
※ただし今回の規制のルールにおもちゃの製造年月日の表示義務は無く、監査が入る場合は製造や取引の記録などを元にして製造時期を調べるものと思われます。
楽器は規制の対象外
音楽を演奏するための楽器は規制の対象外となります。例えば、演奏会で使われるような機能、品質の木琴などがこれに該当します。
一方で、演奏には明らかに不要な機能が付随する楽器を模した製品は上記の「楽器」には当たらないとされます(規制の対象)。例えば、キャラクターのイラストや造形が入っており、ボタンを押すとそのキャラクターの声が出て、ライトが光るようなラッパやタンバリン型のおもちゃを「これは楽器です」と言い張るのはダメということです。
また、楽器の要素はあるものの、明らかに子どもが遊ぶ用途でデザインされているものは玩具とみなします。例えば、乳幼児の手の大きさに合わせて作られた「でんでん太鼓」は、子どもの遊戯用=玩具とみなされます。※1
これらの楽器か楽器でないかの仕分けは製造者の責任において判断をする※2とされています。
※1、2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問7(1).3歳未満児向けの楽器としての機能を持つ製品~への回答より
※2、2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問7(2).製造者での玩具か楽器かの仕分けが困難な製品の判別~への回答より
ワークショップ(木工体験)で乳幼児玩具を作ったときの完成品は規制の対象外
ワークショップが完成品の製造や販売ではなく、手作り体験の提供であれば規制の対象外となります(一般的な解釈として)。
ただし、作った玩具を乳幼児が使うのであれば、技術基準を満たすことが望ましいとされます。
※2、2025年10月29日に岐阜県で開催された説明会での事前質問1(8).ワークショップ(木工体験等)の扱い への回答より
おもちゃの対象年齢を決めるには
ここまで書いてきましたが、正直よくわからない・・という方もいらっしゃいますよね。自分も何が規制対象で何が規制対象外になるのか?深掘りされると答えに詰まってしまいます。
まず、自分が作る玩具が規制の対象になるのかならないのか?それを確認するために、玩具の対象年齢について、正しく判断をする必要があります。繰り返しになりますが、3歳未満児向けであれば規制の対象玩具となりますし、対象年齢が3歳以上のおもちゃであれば、規制の対象外になるのです。
対象年齢を決めるための参考資料
経済産業省のウェブサイトにおもちゃの使用年齢基準に関する資料がありますが、『乳幼児用玩具には、使用年齢基準に沿った対象年齢を定める必要がある。』という記載はあるものの、具体的にどのおもちゃの対象年齢が何歳か?といったことは何も書かれていません。
もし、具体的な使用年齢基準の参考資料を見ようと思うのであれば「ISOやASTMが定める対象年齢のガイドラインを参考にすると良い」と説明されているだけです。(これがすごく高価で購入は現実的ではありません)
一般社団法人日本玩具協会の方では玩具の対象年齢の決定のための情報(ST ISO TR 8124-8:2024)を、2025年の6月から販売を始めています(販売サイト)。こちらが22000円(非会員価格)となりますが、玩具の対象年齢を確認する参考資料としては比較的現実的な選択肢となるかもしれません。
対象年齢は事業者が自分で設定して良い
上でおもちゃの対象年齢を確認するための資料を紹介しましたが、実は対象年齢は事業者が自ら設定して良いということも、知っておく必要があります。
先の経産省のウェブサイトにある使用年齢基準に関する資料を見てもらうと、上で紹介した資料に準拠することが必須とはしていません。合理的な根拠に基づけば、自ら設定しても良いのです。
おもちゃの形や遊び方は実に多様です。既存のおもちゃの分類に自社の製品が該当しないこともあり得ます。今まで市場に無かったようなおもちゃを作ることもあるでしょう。そういった場合は合理的な根拠に基づいて、自ら対象年齢を設定することになります。
ただし、一般的な事例を無視した対象年齢はダメ!
規制逃れを目的に(しちゃダメですが)、おもちゃの対象年齢を上げてしまおうと考える方もいるかもしれません。
しかし、実際のおもちゃの用途とそぐわない対象年齢の設定は使用年齢基準に関する資料の中で以下のようにルールを設けて厳しく禁止しています。
1、使用に適した年齢は、合理的な根拠に基づくものであること。
2、使用に適した年齢は、届出に係る型式の特定製品に係る広告において意図されている使用に適した年齢に矛盾しないこと。
3、使用に適した年齢の下限は、類似する他の製品に設定された使用に適した年齢の下限を上回らないこと。
4、使用に適した年齢の下限は、子供用特定製品の機能、寸法その他の特徴から、一般消費者が合理的に推測できる年齢の下限を上回らないこと。
うん、すこしわかりにくい文章ですね。
要約すると、おもちゃの対象年齢は世間一般の通念と矛盾してはいけない。妥当なものでないといけないということです。矛盾を伴う対象年齢を設定した場合、規制違反として取り締まりの対象になるということを覚えておきましょう。
規制の対象、対象外を考えるときの注意点
今までの玩具業界では、おもちゃの取扱説明書に「このおもちゃの対象年齢は3歳以上です」と書けば、色々な制約を逃れることができてきたかもしれません。
でも、それは新しい規制においては許されません。
自分が作るおもちゃが、規制の対象となるのか?対象外となるのか?
それをよくわかっていないと、不要な検査をしてしまったり、逆に必要な手続きをしないで、法律に違反してしまうことが起きてしまいます。やはり規制に関する勉強は必要でしょう。
一方で、この規制は、あくまで「事業として、おもちゃを製造・販売する」際に関わるルールです。例えば、アマチュア木工家が地域のバザーで「自作のおもちゃを販売する」といった場合、私の中の解釈では「規制の対象外のおもちゃ」というふうに考えています。通念的に「地域のバザー」は事業とはみなさないとされているからです。
新しい規制が始まったからといって、あれも規制の対象だ!無届でおもちゃを作ったら法律違反だ!と、乳幼児おもちゃ警察みたいなことをしてしまっては、木のおもちゃ業界は今後、だれもいなくなってしまいそうで心配です。
規制とうまく付き合える距離感を、早くおもちゃの作り手たちが見つけられると良いなと思います。

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